前歯の前方への突出(上顎前突または上下顎前突)、口元が前方に出ている、前歯の重なりが大きい(叢生)、前歯が噛み合っていない(前歯部開咬)、前歯の真ん中が大きくずれている(正中偏位)等、前歯や口元が気になる方やお悩みのある方は、当院にご相談ください。
これらの前歯の症状は、犬歯の位置が本来より前方にずれていることよって生じることが多くあります。一般的に歯根が長い犬歯を後方へ歯の頭(歯冠)だけではなく歯根ごと後方に移動(歯体移動)する必要があります。 歯の移動様式として、歯体移動に対し、傾斜移動があります。 歯の傾斜移動は、歯の頭(歯冠)だけ倒れて移動するため、歯根が十分に移動していません。 後方に歯体移動するべき犬歯をおもに傾斜移動してしまうと、犬歯の歯根が残ってしまい、前歯4本(切歯)をしっかりと後方に移動したり、きれいに並べることができなくなり、口元の十分な改善もできなくなることがあります。
上の図は、犬歯の位置を調べる方法の一つです。実際には、矯正診査において模型上で計測します。この図のオレンジ色の横線上あたりに犬歯の先(赤い点)があると良いことを表しています。ぴったり合う必要は無く、もちろん許容範囲があります。前歯の重なりを改善するためには、犬歯を歯根も含めて後方にしっかり移動する必要があることを示しています。また、右と左の犬歯の前後的なずれも後方に移動する際に改善する必要があることがわかります。
また、前歯の症状を改善するために、上顎の奥歯(大臼歯)を固定したり、後方に歯体移動する必要が多くあります。特に、上顎の奥歯を支えている歯槽骨は柔らかくスポンジ状(海綿骨)のため、前歯(特に犬歯)と奥歯を引っ張り合うと、前歯が十分に後ろに下がらず、反対に奥歯が前にずれやすくなります。上顎の大臼歯を固定したり、後方に歯体移動するためには、動かないもの、つまり固定源が必要になります。 従来は、固定源を得るために頭にキャップのような物を被るヘッドギアが使用されていましたが、審美的、装着感、治療効果等に問題がありました。
矯正用アンカースクリュー
近年、矯正用アンカースクリューを使用することにより、大臼歯を確実に固定し、さらに後方へ歯体移動することができるようになりました。大臼歯を固定することにより、犬歯をはじめとする前歯をしっかり後方に移動することができます。また、大臼歯を後方に歯体移動すると、前方に犬歯を後方へ移動するためのスペースを作ることができます。
上顎の奥歯を支えている歯槽骨は柔らかくアンカースクリューが脱離しやすく、歯根部の損傷のリスクがあるため、当院では、おもに口蓋部(上顎の天井の部分)にアンカースクリューを使用します。 口蓋部は、骨が硬く厚みがあるため脱離しにくく、口蓋部は歯根が無いため、安全で最適な場所であると科学的な根拠があります。 口蓋部のアンカースクリューは日本および国際的にも標準サイズの直径2mmのものを使用しています。 長さは、9mmまたは、7mmのスクリューを使用しますが、歯肉の厚さは通常2mm位ありますので、実際は、7~5mm程が骨内で固定されます。 アンカースクリューは、デンタル・インプラントと異なり、骨への結合は無く機械的に維持されるため、除去も簡単に行えます。 除去した後は、スクリューの直径が2mmと小さいため、翌日くらいには傷が塞がり、1週間位にはポツッと痕が見えるくらいになり、その後次第に無くなっていきます。
当院ではヨーロッパの安全規格(CE認証)および、日本薬事承認を受けた滅菌済み、もちろん使い捨ての強度や安全性の優れたアンカースクリューを使用しています。 スクリュー埋入や除去時は、局所麻酔によりお痛みが無いように行ないますのでご安心ください。
BENEslider装置(上顎大臼歯の後方移動装置)
私の留学先のドイツ・デュッセルドルフ大学矯正歯科は2008年に口蓋部の矯正用アンカースクリューに連結固定することが可能な、上顎の大臼歯をスライドさせて後方に移動できる矯正装置とシステムを開発しました。 この装置により、アンカースクリューを固定源とし、大臼歯を後方に歯根ごと移動(歯体移動)および固定することが可能となりました。 2010年のドイツ留学当初より、このシステムの専門的なトレーニングを受け、BENEslider装置の臨床研究にも携わり、ドイツと日本において数多くの治療経験を積んできました。 私のドイツ歯学博士号の研究により、矯正用アンカースクリューとスライディング・メカニクスを応用した装置で効果的に上顎の大臼歯の後方への歯体移動が可能であることを明らかにしました。 ドイツで開発されたBENEslider装置は、現在、世界各国で広く臨床応用されています。 帰国後、この技術の国内における普及のために、多くの論文や学会で発表し、公認インストラクターとして講演活動も行なってきました。
BENEslider装置
A: 固定ロック, B: 連結用プレート, C: コイルスプリング, D: スライド用チューブ
口蓋部の矯正用アンカースクリューに矯正装置が連結プレートで固定されていますガイドとなる舌側のワイヤー上をコイルスプリングによる矯正力で大臼歯を後方に歯根ごと移動(歯体移動)することが可能になります。
BENEslider装置による大臼歯の後方への歯体移動
治療例1
上下顎の前歯の突出と叢生がみられました。上顎大臼歯を後方に歯体移動し、その後、固定することにより、小臼歯を抜歯せずに前歯を後方に引っ込めることができました。
治療前:前歯の前方への突出がみられます。
治療後:前歯の突出が改善しました。
下顎の右側の側切歯のみ、歯周病が進行していたため抜歯しました。上下顎の小臼歯は抜歯していません。
BENEslider装置で大臼歯を後方に歯体移動し、前歯の問題を改善するためのスペースを作ることができます。大臼歯を後方に移動した後に固定することができます。大臼歯の位置が決まり固定し、前方にスペースが確保できれば、後はブラケットとワイヤーで細かい調整をします。この症例は舌側矯正装置を使用していますので、全ての装置を裏側に装着し、まわりに見えずに矯正治療ができました。
治療例2
治療前:上顎の前歯の重なりが大きく、前歯の真ん中が左側にずれています。
左右両方の親知らずが生えているため、小臼歯を抜歯せずに、両側の第二大臼歯を抜歯して第一大臼歯を後方に移動しました。
BENEslider装置を装着しています。
ワイヤー後方部の長さをみると第一大臼歯の後方への移動量がわかりやすいと思います。両側の大臼歯の前後的な位置を調整できるため、前歯の真ん中のずれ確実に改善できます。前歯の叢生、前歯の真ん中のずれ、前歯の前方への突出等を改善するためには、後方の大臼歯と犬歯の位置がとても重要であることがおわかりになると思います。矯正用アンカースクリューとスラィディング・メカニクスを応用したBENEslider装置により、大臼歯の前後的な位置を改善し、前歯の突出、叢生、真ん中のずれ等を効果的に治療することができます。
治療後:左右の大臼歯を後方へバランス良く歯体移動することにより、小臼歯を抜歯せずに、犬歯と正中の位置と歯並びを改善することができます。上下の正中も合い、噛み合わせも改善しています。
デジタル技術を応用したSHU-lider®装置
ドイツと日本での多くの臨床経験や研究に基づき、さらに、より確実で効果のあるSHU-lider®装置を日本において考案、特許取得しました。また、国内のみならず世界有数の技術力とシェアを誇る矯正専門ラボのASOインターナショナルと共同開発し、日本で製品化することができました。
SHU-lider®装置
SHU-lider®装置は、デジタル・CAD/CAM技術を使用して精密に作製され、優れた適合と強度を備え、大臼歯だけではなく、犬歯や小臼歯の確実な歯体移動を行うことが可能です。従来の装置より、以下のような前歯の様々な問題を効果的に改善することが可能です。
・上顎前突(上顎の前歯が前に出ている)
・前歯部叢生(前歯の重なりがある)
・前歯部開咬(前歯が噛み合っていない)
・上顎前歯の正中のずれ(上顎の前歯の真ん中の左右へのずれ)
・前歯や奥歯の欠損や隙間
上顎の前歯が前方に突出して、口元が出ているケースを改善する際には、歯槽骨中に歯根が長く植わっている犬歯を歯根ごと後方に移動させる(犬歯の歯体移動)ことが重要になることが多くあります。犬歯の歯根を十分に後方に移動させないと、歯槽骨中で重なったり、前方に倒れている4本の切歯の歯根を十分に後方に移動することができません。つまり、前歯をしっかりと後方へ動かせないことになり、口元も十分に下げることができなくなります。SHU-lider®装置を使用することにより、犬歯の後方への確実な歯体移動を行い、前歯の問題を効果的に治療することが可能です。また、SHU-lider®装置は、上顎の大臼歯も後方へ歯体移動できます。状況によっては、小臼歯を抜歯せずに、大臼歯を後方へ移動したスペースを利用して、前歯の問題を改善することも可能となります。小臼歯の抜歯・非抜歯のボーダーラインの方は、従来に比べて小臼歯を抜歯しないで、治療できる可能性が広がりました。
しかし、顕著な上顎前突と叢生の改善には十分な前歯のスペースな必要となります。その場合、犬歯が本来あるべき位置よりも、前方に位置していることが多いため、犬歯を歯根ごと後方へ移動する必要があります。この方の場合は、犬歯を後方に十分に移動するスペースを確保するために、第一小臼歯の抜歯が必要となりました。矯正用アンカースクリューを埋入後にSHU-lider®装置を装着後に、第一小臼歯を抜歯しました。抜歯後にすぐに犬歯を後方へ歯体移動行なうことができます。
上の比較写真は両側の第一小臼歯を抜歯後に犬歯を後方に歯体移動を行う前と6ヵ月後です。ガイドとなるワイヤーの先端の長さを比較すると移動量がわかりやすいかと思います。犬歯を後方へ歯体移動を確実に行うと、ブラケットとワイヤーを使用せずに4本の切歯もある程度、後方に移動してきます。これを、フィジオロジック・ドリフト効果といいますが、歯体移動を行うことにより積極的に活用することができます。隣接した歯根同士の間に、靭帯のような線維でお互い結合しているために生じます。犬歯を後方へ歯体移動を十分に行うと、前歯の歯根もしっかりと後方に移動できるため、より自然な感じで前歯や口元を下げることが可能になります。このようなケースでは、当初は切歯にはブラケットとワイヤーを装着せずに、犬歯が後方に移動し、切歯の叢生を改善するためのスぺースができた頃に装着することになります。切歯の叢生を改善するためのスペースがなければ、ブラケットやワイヤーを使用しても改善することはできず、逆に前歯が前方に傾斜したり、歯の不必要な移動が生じてしまうこともあります。SHU-lider®装置を使用すると、状況により上顎の前歯に装着するブラケットやワイヤーを使用する期間を短縮することができます。写真上、大臼歯に青色のレジン(プラスチック)を盛り噛み合わせをやや高くし、歯ぎしりによる装置の脱離を防いだり、歯の移動を行いやすくしています。
従来のように、一般的なブラケットとワイヤーによる装置のみを使用する場合は、抜歯後に非常に柔らかいワイヤーを装着して、徐々に硬いワイヤーへと数ヶ月にわたり変えていき、前歯の重なりを少しずつ改善していきます。前歯には隙間がないため、前歯がさらに前に傾斜したり、無駄な歯の移動が生じやすくなります。また、硬いワイヤーを入れて犬歯を後方に引っ張らないと犬歯は傾斜移動しやすくなるため、本格的に犬歯を引っ張り始めるまで相当時間がかかります。さらに、奥歯をしっかり固定しないで前歯と奥歯で引っ張り合うと、奥歯が前方にずれて抜歯した折角のスペースが無くなってしまい、前歯を十分に改善するチャンスが無くなることがあります。一般的なワイヤーは、硬いワイヤーといえど、指で曲がる程度なので、小臼歯1本分の距離を犬歯を後方に移動する際に撓みが生じたり、ブラケットとワイヤーに摩擦が生じ奥歯が前方にずれやすくなります。犬歯を後方にひっぱる際にワイヤーが撓むと、犬歯の歯冠は後方へ傾斜しやすくなります。そうすると、犬歯の歯根が前方に残りやすく、その前にある前歯4本は、同じように歯冠だけ後方に傾斜しやすくなり、噛み合わせが深くなったり、歯茎が残りやすくなることもあります。
SHU-lider®装置の場合は、抜歯後すぐに直径1mmのしっかりしたガイドに沿って犬歯を後方へ確実に歯体移動することができます。小臼歯の抜歯が必要な場合においても、矯正用アンカースクリューによって大臼歯はしっかりと間接的に固定されているため、臼歯が前方へずれず、前歯の問題を改善するために抜歯したスペースを十分に利用できます。
小臼歯を抜歯して隙間が短期間(例えば2、3ヶ月)で閉じた場合は、犬歯の傾斜移動によるものであったり、犬歯を後方に引っ張る時に大臼歯が前方にずれて動いてしまった可能性があります。その場合は、犬歯の歯根が前方に残ってしまい、切歯の歯根を後方に下げることができないために、上顎の前歯や口元の前方への突出の改善が十分にできないことがあります。ドイツ留学中に私が行なった大臼歯の後方への歯体移動の研究では、移動速度は1ヶ月に平均0.6mmということを明らかにしています。歯根や歯槽骨の状況によりますが、犬歯の歯体移動もそれに準じた速度であると考えています。
矯正用アンカースクリューとSHU-lider®装置を使用すると、大臼歯の後方への歯体移動や固定を行ない、さらに犬歯の後方への歯体移動を効果的に行なうことができます。犬歯の位置を十分に改善することにより、前歯や口元の突出をはじめ様々な前歯の問題をしっかり改善することが可能になります。
歯や歯槽骨の状況が悪い場合、歯周病が進行している場合、骨格的なずれが大きい場合等で上記の治療が困難なことがあります。まずは、ご相談ください。
上顎の前歯の前突(上顎前突)、口元が前方に出ている、前歯の重なりが大きい(叢生)、前歯が噛み合っていない(前歯部開咬)、前歯の真ん中が大きくずれている(正中偏位)等、気になる方やお悩みの方、以前に矯正治療を行ったが、さらに前歯や口元を改善したい方もご相談ください。
カウンセリング・コーナーで随時、無料相談を行なっております。